
なぜ、定期検査報告が出せないエレベーターが存在してしまうのか?
建物の行政による建築竣工検査を受けていないビル、マンション等がごくわずかですが、世の中に存在します。日本の建築制度では、まず土地を買って建物を建築しようとした場合、建築設計士に依頼してその土地に合法的に建築できる建物の設計図を作成してもらいます。その設計図の建物は建築基準法の基準を満たしているかを行政機関に判断審査してもらうのですが、それが建築確認申請です。問題ないと判断されると確認済証が発行され、はれて工事着工する事ができます。工事が完了すると行政機関に現地での検査をしてもらわなくてはいけないので検査申し込み、検査実施し、問題なければ検査済証が発行されるのです。エレベーターが設置計画されている場合は、この建築確認、完了検査と同じステップを踏んでの昇降機確認申請、完了検査を同様に行うのですが、建築完了検査が未受検で引き渡されてしまった場合、エレベーターの完了検査の申し込みが受け付けられない為、エレベーター単独で完了検査の申し込みをしても建築とセット・同時期でないと受け付けてくれません。エレベーター工事は建設会社からの請負が多い為、建設会社がそのまま引き渡しを実施すると必然的にエレベーターも一式引き渡しとなり、建築同様竣工検査未受検となってしまいます。
しかしながら、エレベーターは年に1度の定期検査報告を管轄行政に提出しなければなりません。管轄行政は竣工検査を受検してパスした検査済証を持って、その建物のエレベーターを確知するので、当然そこに定期検査報告を実施して報告書を提出しても、ここでも受け付けてもらえません。
これが、延々何十年も継続して定期点検は業者に委託してるが、定期検査報告は実施していない、エレベーターのカゴ内の操作盤付近に通常ならば定期検査済証と書かれた、よく透明のアクリルケースに四角いワッペンのようなものが掲示されているものがないといった事が稀にあるのです。
特に大阪市内にそういった建物が多く、実際勤務していたエレベーター保守会社でもそういった条件のエレベーター保守契約を締結して所有者様と通常の保全管理のやり取りをしていました。驚くことにそういった竣工当時からの特別な事情について物件売買の過程で引き継がれる事がないのか、まったく把握されていないオーナーさんが多かったことを覚えています。
定期検査未報告物件に対して最近の行政対応の動きについて
10数年前、当時エレベーター事故で世間を騒がせていた某エレベーターメーカーに勤務していた時の話ですが、連日の国土交通省から緊急点検の要請、点検実施後の報告が一通り落ち着いた頃合いに各独立系保守会社が締結していた、事故発生の同型機種エレベーター保守契約を解約してメーカーである当社に保守契約引き受けの打診要請がありました。当然、当時独立系保守会社との締結金額とメーカー系保守会社との価格相場にはかなりの開きがありましたが、それを推して引き受けてもらえないかとの要請です。背景には度重なる事故発生で製造会社が保守管理している機種のみならず、他の独立系保守会社が締結している同型機種もあるわけで、度重なる行政指導、特殊な構造と特別な技術が必要な取り扱い方法の為の研修指導等、他の扱うメーカーのエレベーターとはコスト面での採算が取れないといった判断でしょう。それと2度も死亡事故を発生させた機種のエレベーターをこれからも契約継続していくにあたりリスク管理判断から、こういった前代未聞の要請に至ったのだと思われます。
当時のメーカーとして於かれた立場として、この要請については受けざる得ない状況でした。
その引き継ぎ業務の実務を私が担当しましたが、その中に定期検査報告を出せていないエレベーターが複数存在していました。
事故機以外であれば、定期検査報告未実施であれば管轄行政が確知されていないので行政側とのやり取りは存在しないのですが、事故機については国土交通省からリストが各管轄行政庁に挙げられています。
その事故機・定期検査未実施のエレベーターについてはなぜ、竣工当時に検査が受検申請できなかったのか?何が原因で検査が受けられない?検査がパスできない要素は何か?問題はエレベーターなのか?建築なのか?
通常のエレベーターの安全報告以外に頻繁に行政担当から問い合わせについて対応を余儀なくされました。
一つ分かったことは、エレベーター自身に問題があるのではなく、建物側に問題があるケースがほとんどだという事でした。
あれから、10年以上の歳月が流れて、行政側も未受検エレベーターを黙殺、放置するだけではもし事故が発生した際に現状把握認識がなく、対応がとれない事が今後問題だといった認識に変わり、積極的に相談を受け付けてくれるようになりました。
定期検査報告未実施エレベーター受付に向けての協議申請業務について
こういった竣工検査を受けていないエレベーターのリニューアル更新時期が現在ピークとなっています。
バブル全盛期、少しの改造なら安全に支障ない範囲で検査なしで引き渡すといったコンプライアンスが欠如した時代だったと思いますが、その後始末をエレベーター利用者がいる限り、何らかの手法で解決していかなければなりません。弊社はこういった特例中の特例的なご相談も承っております。
実際、大阪市内の自社ビルで転売後にこういった、エレベーターの諸事情が判明し、これからのコンプライアンス重視の時代に何とか出来る手当てはないのか?といったご相談を受け、管轄行政とエレベーター保守会社と連携し所有者責任を担えるような手続きを進めています。
【参考】
*昇降機の適切な維持管理に関する指針及びエレベーター保守・点検業務標準契約書 解説 以下抜粋
定期検査等
所有者は定期検査を行う資格者(1級建築士、2級建築士、昇降機検査資格者)の求めに応じて製造業者が作成した保守、点検に関する文書など昇降機に係る建築確認、検査の関係図書、第1章第3項第3号・・・・に規定する過去の作業報告書等、定期検査報告書の写しその他保守点検業者が適切に保守、点検を行うために必要な文書等、定期検査を行う資格者に閲覧させ、又は貸与するものとする。
定期検査等
定期検査とは建築基準法第12条第3項の規定に基づき昇降機の所有者にその昇降機について、定期的に1級建築士もしくは2級建築士又は国土交通大臣がその資格者証を交付する昇降機検査員に検査させ、その結果特定行政庁に報告する義務を課すものです。



