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補助金

【補助金の要件】エレベーター防災対策改修(戸開走行保護装置)

2024年4月30日

2024 04 30
扉が開いているエレベーター

補助対象となるエレベーター改修工事補助の必要要件

前回の記事「エレベーター防災対策改修 補助金の要件(耐震対策)」に続き、必要要件工事の「3、戸開走行保護装置の設置」について紹介します。

1,地震時管制運転装置の設置

地震による閉じ込めを防止する。本震(S波)の前に到達する初期微動(P波)を感知しエレベーターを最寄り階に自動的に着床、停止させる装置

2,主要機器の耐震補強措置

滑車からのロープのはずれ防止、昇降路突出物への絡まり及び駆動装置や制御機器の転倒・移動を防ぐ。

3,戸開走行保護装置の設置

駆動装置又は制御機器に異常発生し、かごの停止位置が著しく移動した場合やかご及び乗場のすべての出入口の扉が閉じる前にかごが昇降した場合に自動的にかごを停止し人の挟まれを防止する。

4,釣合い重りの脱落防止措置

昇降路内の釣合い重りが地震時に錘枠から脱落する事を防止する対策

5,主要な支持部分の耐震化

レールや支持梁などエレベーター重量を支える部分が地震に対して構造耐力上安全性を確保する。(安全な強度とする)

補助金の必要要件 工事(3)戸開走行保護装置について

歴史的背景

2006年6月3日 東京都港区の公共住宅において1階から自転車をエレベーターに乗せて12階で降りようとしたところ扉が開いた状態でエレベーターが上昇し乗降口の上枠とエレベーターの床の間で挟まれてしまった事故が発生しました。

エレベーターの製造会社と当時のメンテナンス会社、建物管理していた公共団体と被害者側とで実に11年間法廷で係争の末、和解となりました。

事故の原因については制御系の不具合か、ブレーキ構造に起因するものなのか、あるいはメンテナンス側に落ち度があったのか等かなりの係争過程がありました。結果として、刑事事件としては製造会社側、保守会社側ともに無罪判決となりましたが、その間に法制度化され、2009年9月28日以降に着工する建築物に新設されるエレベーターには「戸開走行保護装置の設置」を義務付けされたのでした。

戸開走行保護装置とは、ブレーキの二重化が目的とされたシステムですが、海外では欧州、アメリカ、韓国、香港、中国と日本より以前から法制化されていましたので、この安全基準については世界基準から当時の国内基準は立ち遅れていました。

その後、国内既設のエレベーター約70万台についても既存不適格扱いとしつつも「昇降機等維持管理指針」の発刊で戸開走行保護装置の重要性、戸開走行保護装置設置推奨の啓蒙と<昇降機の適切な維持管理のために所有者がなすべき事項>、<保守点検業者の選定に当たって留意すべき事項>、<保守点検に盛り込むべき事項>等、具体的な指針がこの時初めてエレベーター保守業界に関しての明確な指導、指針と業界内で認知され始めました。

エレベーター改修工事仕様の戸開走行保護装置とは

戸開走行保護装置は業界専門用語で「UCMP」とも言われます。

Unintended    Car    Movement   Protection

意図的でない  かごの   動作の    保護

運転制御回路や一つのブレーキが不具合状態になっても、独立した別の回路で戸開走行を検知してかごを制止させるシステムで、以下の5つの装置が一つのシステムとして構成された国土交通省認定の安全装置です。

1,UCMP判定装置

運転制御回路及びブレーキ不具合、戸開走行を検出し、かごを緊急停止させる独立した理論判定装置。

2,巻上機ブレーキ2重化

機械的に独立したブレーキ装置により万が一に一つのブレーキに不具合が発生してももう一方のブレーキ装置で制動力を確保し戸開走行他エレベーター運転異常検知したときに確実にかごを制止させる。

3,特定距離感知装置

かごの位置がドアゾーンから著しく移動した状態をかご上及び昇降路内に設置したセンサーで検出しUCMP回路によりかごを制止させる。

4,各ドアスイッチ

かごと乗場ドアに設置されているスイッチにより扉の開閉状態を検出しUCMP回路によりかごを制止させる。

5,ブレーキモニタリング装置

ブレーキ装置プランジャー部のモニタリング機能によりブレーキ動作の状態を検出しブレーキに不具合が発生した場合、UCMP回路によりかごを制止させる。

戸開走行保護装置を既設エレベーターに付けるにあたって

乗場でエレベーター扉が開いている状態でかごが上昇、下降し、かご床(かご下エプロン)と上枠あるいは下枠(敷居)との段差が1m以上になると緊急停止する事になります。

通常はブレーキが利かない状態になると、かごは重りに引っ張られて上昇方向に向かいます。特に今回の事故のように自転車を載せながら乗り込む際は注意力が散漫になったり、幅が800、900mmの出入口部で自転車を支えながらの体勢では急に回避できなくなります。安全性第一の観点からはあらゆる状況を想定して最大限の予防措置ができるようするべきと思います。

実は、こういったエレベーターの戸開走行事故は過去に複数回発生していました事が、後に発覚しました。事故当時者である製造会社の製品が大半ですが、その他の国内製造会社製も数件確認されています。

補助金申請に係る以前の検討事項としても予算的に検討できるなら私は戸開走行保護装置をリニューアル工事のタイミングで設置する事をお勧めします。

前段であれほど戸開走行保護装置を設置するべきだと言っておきながらですが、設置した場合の副作用的な事例もあるので以下紹介します。

いくもの各所のセンサーが絡み合って一つのシステムとなっているので稀に誤作動も発生します。

よくあるのが、飲食店舗ビルのエレベーターで昇降中に泥酔した乗客がかご内で暴れ、その振動で扉の位置がズレてしまって戸開走行と認識し緊急停止しました。

一度UCMP回路が作動するとエレベーター専門技術者が現地で安全確認をしてからでないと復旧できないのでその乗客は技術者が駆け付けるまでの約40分間かご内で閉じこもってしまった事例があります。

もし、拠点となる緊急対応のサービスセンターが現地からの対応時間に相当な時間を要する場合、上記のようなケースが頻繁に起こりうる可能性が高いなら慎重に検討しなければなりません。

最後に戸開走行保護装置は国土交通省の認定製品から、製造設置できるエレベーター会社が限られています。当然大手メーカーはすべて対応しており巻上機を交換するリニューアル仕様の場合は標準ラインナップで戸開走行保護装置付きとなっているケースが多いようです。それに対して独立系のエレベーター会社は戸開走行保護装置をオプション対応としており、会社によってそのオプション価格は50~200万円以上とかなり幅があります。

これには、その会社独自の認定基準、条件でのシステム構成の違いが影響しており低価格を売りにしている独立系保守会社としてはあまり積極的に戸開走行保護装置を売り込むことはないように見受けられます。

補助金申請には高度な専門知識と慎重な施工会社の検討が必要

前回の耐震対策でも述べたように補助対象要件の工事仕様一つ一つを深く理解し、皆さんのエレベーターに本当に必要だと判断できるなら、諸条件を当てはめて申請適応に向けてのリニューアル工事の予算検証・検討するべきです。

しかしながら、現実的にはこういった社会的にも必要性が高い、国も補助制度を制定して予算の拡充も図ってきているにも関わらず、ほとんど活用できない、活用の仕方がわからない、どうやって活用できる要件が揃っているか調べる方法すら分からない等がほとんであり、現実なのです。

通常はこういった補助制度を営業ツールとして積極的に展開してくるのですが、エレベーター業界に関してはそういった動きは見られません。

メーカー系保守会社、独立系保守会社によってもこの捉え方がバラバラであり業界内でも深く認知されていなからだと思われます。

歴史的背景からこの装置機能について、制度の活用経験のある専門コンサルタントにぜひご相談ください。

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