
マシンルームレス型エレベーター誕生はエレベーター技術の転換期
今から25年程前、リニア式エレベーターが発表され従来の半分以下のスペースで屋上塔屋ではなく、1階のエレベーター乗場周辺位置にエレベーター機械室を設計する事が建築設計市場では大きな反響であった事を今でも記憶に新しく残っています。建築設計士はより多くの専有部、ゆとりのある共用部を念頭に限られた敷地スペースに各設備の最低必要寸法で設計レイアウトします。その作業の中でエレベーター機械室やエレベーターの昇降路寸法、地下のピット深さ、最上階床レベルから昇降路天井までのオーバーヘッド寸法(OH)をいかに効率的に省スペースでレイアウトできるかが設計者の技量優越の指標となっている印象を受けていました。
各エレベーター製造会社もその意向を受けて他社よりもより狭いスペースでいかに自社の機器を収める事ができるかが開発競争の最も焦点として、新設営業の売り込みのポイントとなっていました。
当然、一気に需要は新技術の機器に集まり、以降ロープ式の完全に機械室がないマシンルームレス型が普及し、従来の機械室ありのロープ式エレベーターは特殊な積載量の大きい荷物用や高層用、非常用等限られた用途のエレベーターに限定されるようになり、一般マンションに設置される6,9人乗り乗用住宅用エレベーターはほぼすべてマシンルームレス型の市場となりました。全体的に価格、コストも今までのロープ式とほぼ横ばい程度だったように思います。
ただ、油圧式については部品点数、作業工程も多い事からマシンルームレス型ロープ式が若干安かったようでした。
新設市場では、油圧式の一般型エレベーターのメリットが無くなり、当時はすぐにでも油圧式エレベーターはなくなってしまうだろうと多くの業界関係者は感じていたと思います。
あれから、25年を経て見渡せば確かに新設市場では予想通り、油圧式エレベーターが新築建物に設置されるケースはごく少数となりましたが、既設市場では思ってたほど油圧式がロープ式に入れ替わった印象は私個人的にはないのですが、皆様はどのように感じていらっしゃいますか?
そもそも、自分のマンションのエレベーターが油圧式かロープ式かなんてまったく意識されていない方がほとんどでしょう。
まず、自分のマンションに付いているエレベーター油圧式だった、設置したエレベーター会社から部品供給終了(部品というより主要機器すべて)案内がきて、初めてこういった業界の経緯、推移を聞かされる事になるのです。
“将来、油圧式エレベーターは無くなります“をどう捉えるか
以前もこのテーマでブログ掲載しましたが、反響が大きかったようなのでもう少し深堀しようと思います。
油圧エレベーターは将来なくなるのか? – ブログ | エレベーターマネージメント
現在ほとんどの油圧式エレベーターは製造会社から部品供給終了の対象となっています。
前述のような経緯説明から、地球環境、省エネ、最新の安全基準などのメリットから、ロープ式マシンルームレス型への入替工事を選択される所有者様が若干多いように感じますが、コスト面と工期についての事情が絡んでくると簡単には決断できないと思います。
機械室ありのロープ式のリニューアル工事と比較して、ほぼ倍以上の工事金額であり、通常工事期間が約1.5~2か月必要となる為、すんなり容認できるマンション管理組合は多くはないのではと考えられます。
過去の相談事例で、当初はロープ式への入替工事の見積提案をしてきたが、検討途中に社内で出来ない事となったので、保守契約をいついつを持って終了してほしいといった話になった。どうしたらいいか?といったかなり乱暴なケースですが、よくよく調べると、建物の竣工検査を受けていないので検査済証がない物件であったと判明しました。
建物、エレベーター共に検査済証がないと入替工事の場合、エレベーター を既存機器を撤去して新しい機器を新規設置するので確認申請手続きが必要となります。確認申請を行政に届け出るには当時の確認申請書類一式である検査済証が必要の為、入替工事ができないから、これ以上部品もなくなってしまうので保守契約の継続ができない、だから契約を終了させてほしいといった経緯でした。
分譲マンションでは滅多にはありませんが、自社ビル、事務所ビルや小規模賃貸マンションの特に敷地内で増改築をされている建物では多く見られます。
担当行政管轄の特定行政庁建築指導部、審査部へ出向き相談をして指導を仰ぎなんとか良い解決策はないか現在折衝協議中です。
このように、高額だが法的にやろうにもやれないケースや、金額や停止期間の問題から判断、決断できない所有者様が想像以上に存在しています。
そういった解決策としては、油圧式エレベーターの油圧制御ユニットと制御盤を一式あたらしく入れ替えて、油圧式の構造のまま制御リニューアル工事を検討される事を提案しています。
油圧制御リニューアル工事となれば、独立系保守会社の提案となり、工事後はそことの保守契約となり、保守部品は独立系保守会社製の部品が対象となり従来と変わらず、少なくとも20年先まで油圧エレベーターを使用継続する事になります。
ただ、ここ最近は油圧製品部材の価格高騰より以前よりもマシンルームレスロープ式入替工事との価格差が大きくなくなってきている状況があります。
2020年油圧制御リニューアル5階建て乗用1台・・・650~700万円
→現在では1000万円前後の価格帯の様相です。
それでもマシンルームレスロープ式入替では1400~1800万円程度なので比較すると油圧式が安いですが、費用対効果でかご一式新しくなり、最新の安全基準と耐震性に変わる事を考えると、けっこう悩まれる方が多いのではないでしょうか?
自身の判断、決断する為に情報を取集し広く意見を聞く事が大事
25年前から現在に至るまで、油圧式エレベーターに関して毎年設置保守台数は減少しています。ただ、ここ最近では減少幅が小さくなっていく傾向が見られます。大手製造会社も既存油圧式エレベーターに対してロープ式マシンルームレス型入替提案一辺倒から油圧制御リニューアル提案へ営業方針の転換する動きが見られますし、その反面、今まで価格面で圧倒的なアドバンテージを受けていた独立系保守会社の油圧制御リニューアルも建築資材価格高騰の煽りをうけて見積金額が上昇傾向となっています。
現状分析から利用環境、周辺事情から推定、予測しいつかは決断しなければなりません。
そのお手伝いをするべく日々いろいろな情報収取に励んでいますので、どうかお気軽にご相談、お声がけください。