エレベーター保守会社の遍歴
50年程前から、どこのエレベーター製造会社にも属さない独立してエレベーターの保守のみを請負う会社が新しく設立、創業されてきました。
しかしながら、点検技術は持っていても保守に必要な部品は製造会社から調達しなければなりません。
当初は競合関係にあるメーカー系保守会社は部品の販売を拒否したり、不当な価格や意図的な長期間納期を提示したりと消費者の安全性を損なうリスク、自由競争の阻害から独占禁止法の判決でそのような行為は違法とされるようになりました。
今日に至っては、部品の供給について閉鎖的、差別的な事象はなくなり
自由に滞りなく部品の流通が為されるようになりました。
以上の市場背景から、全国のメーカー系保守会社で技術力のある経験者が独立開業し、いわゆる独立系保守会社は現在、数100社が存在していると言われています。
メーカー系保守会社と独立系保守会社の特徴について
1,保守の考え方、基本的思想
・メーカー系保守会社
予防保全の意識が高く、どのような用途のエレベーターについても例外なく独自の耐用年数周期表をベースに部品の取替提案を基本にしている。
・独立系保守会社
個々の現場に即した現状からの報告、検討依頼がベース。予防保全を基本としながらも各々の経験、実績から推定される尺度での保全作業であり環境、利用頻度、故障、劣化データからコストとの兼ね合いを図って最適な提案を基本としている。
2,金額の一般的傾向
・メーカー系保守会社
フルメンテナンス契約、POG契約共に独立系との比較では一般的に高額だったが一部のメーカーでは低価格化してきている。
・独立系保守会社
フルメンテナンスについては新築から20年経過した機器については基本的には請負わない。但し、部品交換履歴があれば、状況によっては見積可能となるケースもある。価格差は3~4割程安価。
POGについては価格下落傾向が進行している。
価格差は5割のケースもある。
3,特殊技術、オプション仕様対応
・メーカー系保守会社
〇遠隔監視(電源異常、ドア開閉異常、階間停止、安全回路異常)
〇遠隔点検、リモート点検
〇地震時自動診断、復旧システム
〇15階以上の高層、高速エレベーター
・独立系保守会社
〇遠隔監視(電源異常、ドア開閉異常、階間停止、安全回路異常)→対応可
〇遠隔点検、リモート点検→一部の会社を除き対応不可
〇地震時自動診断、復旧システム→対応不可
〇15階以上の高層、高速エレベーター→対応不可
4,リニューアル工事(ロープ式)
・メーカー系保守会社
1台約1500~800万円
築後25年までなら制御盤と電機品のみで550~450万円
巻上機交換なら戸開走行保護装置と14耐震対策を仕様に盛り込む
3パターンのグレード構成
フルスペック
・(巻上機、制御盤、電気廻り、意匠、既存不適格解消等)
・スタンダード
(巻上機、制御盤、電気廻り、一部既存不適格解消)
・エコノミー
(制御盤、電気廻り)
完全停止期間のないハイブリッド工法を対応可能機種でオプション設定
(ほぼ倍の全体工期と3,4割コストアップ)
・独立系保守会社
1台約900~500万円
基本は巻上機と制御盤はセットで提案
制御盤と電機品のみなら350~450万円
巻上機交換だが戸開走行保護装置はオプション対応となり機種によってはかなり高額追加となる。(全階扉交換:100~300万円追加)
制御盤と巻上機以外の機器については各社それぞれ標準設定が異なっているので確認必要。
耐震対策は98と09耐震のみしか対応できないので既存不適格解消は実質不可。
基本的に大手管理会社は独立系保守会社のリニューアルは避ける傾向にある。
採用した場合は管理会社は工事打合せ等に関与しようとしないのである程度組合主導で監理していく必要がある。
ほぼ施工会社が保守請け負うが、施工会社以外の他の独立系保守会社は積極的に保守を請けない。
5,リニューアル工事(油圧式)
・メーカー系保守会社
機械室レスロープ式準撤去新設で3,000万円~1,800万円
新設では油圧式は20数年前から供給していないのでほぼ機械室レスのロープ式への準撤去新設提案をしてくる。
最近、数社メーカーが独立系油圧リニューアル対策と建物問題に対処する為、油圧リニューアルを営業展開しており、制御盤と電気廻りのみで油圧ユニットを流用して500万円前後の見積提案するケースがある。(機種による)
独立系の金額攻勢で劣勢になると自社系列の独立系保守会社に営業譲渡し、価格対応する。
油圧式保守技術の人員が減少傾向なので何らかの対応に時間的な影響が出る可能性がある。
・独立系保守会社
油圧式には油圧制御リニューアル提案をする。
機械室レスのロープ式の提案はしない。(出来ない。)
以前は800万円~650万円だったが、部材コスト高騰の影響で1000万円~750万円に価格が上昇傾向にある。
独立系化保守会社間でも油圧式の技術対応力格差が広がっており完了後の仕上がり状態、保守対応に影響が見られる。
油圧式の機械室への搬入経路で狭路のケースが多い為、事前の搬入計画、楊重作業のスキル、実績経験が少ないとトラブルとなる場合があるので現場環境により見積段階から搬入方法についてヒアリング、確認が必要なケースがある。
今後のエレベーター業界市場動向について
コスト競争力を背景に市場規模の大きい主要都市部から周辺都市部へと保守拠点を増やしながら独立系保守会社は発展してきました。
社会的にも認知が進み、官公庁物件の入札にも参加資格を取得し低額入札によって独立系に於ける占有率が増加しましたが、2006年のエレベーター事故から情勢が変化してきました。
エレベーター保守に対する価格第一主義から安全第一主義へと行政、業界団体の指導、監督によって法改正にまで発展し大手メーカーも既存市場に対して安全性を重要視したアップグレード製品をラインナップし大型改修市場として展開しました。
高経年化した機種の部品の製造を終了させ、安定した部品供給、安全性の高い製品と保守の営業展開を各社一斉に展開し、部品供給問題と大型改修工事の対応力から独立系保守会社にも格差が生まれ両極化の様相が高まってきました。
保守現場のリニューアル提案力が低い会社、部品在庫のキャパシティーが低い会社、後継者問題を抱えている中小規模の会社に対して上場した資金調達力で企業買収を積極展開し、企業規模、市場シェアを飛躍的に伸ばし
急成長している大手独立系保守会社に対抗する動きが大手メーカー系保守会社で活発化してきました。
ある意味、今までの業界慣習、企業理念を覆す動きがメーカー系保守会社と独立系保守会社の各種提携です。
ここ数年の動きで、消費者側から認知されていないせいもあり、大きな影響は今のところはありませんが、今後必ずエレベーター保守保全の重要な選択肢についての予備知識として備える事をお勧めします。
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