
最優先事項を金額とするか、仕様の充実とするか
エレベーターリニューアルに関わらず、何事もそうですが良いものをたくさん要求すれば、それなりに金額は高くなります。
マンションの実情を勘案して、どこまでの範囲、仕様なら、積み立ててきた修繕費用を割り当てるがベストか?が重要なのですが、エレベーターの工事仕様についてどういった内容なのか?から手探りとなるのでそういった各オプションとなる仕様内容を把握して、必要か不必要かを議論、判断していき、修繕積立金の年度計画予算に近づける作業が踏み出す前の第一歩となります。
各エレベーター会社に見積もりの依頼をかけるのですが、同じような依頼説明をして現場調査をしてもらっても、出された見積もり仕様内容、その説明は同じ仕様でも違いがあります。やはり、自社の得意な仕様と不得意な仕様では見積での取り扱いに大きな差がありますし、不得意な仕様内容については、こちらから提示をしないと見積項目に載っていない、あるいは、事前に要求しても、含んでいない(意図的かは不明)ケースがあります。ヒアリングすると“こちらのマンションさんではこの仕様は必要ないと思われるので代替案でこちらにしました”なら、まだ納得できますが、その機能とは全く違う、あるいは説明無しで見積書だけが送付されてくる等、一般の方が見積書を見比べてもチェックするのは至難の業である事に違いはありません。
代替なら、それに見合った費用対効果、なければその分スペックダウンの割合で金額が減額されているのかを見定める事をしなければなりません。
その前に、マンション区分所有者、賃貸利用者、管理組合としてまず、第一優先はコストなのか?部品供給停止問題さえクリアすれば十分なのか?
これを機会に国土交通省が啓蒙している現行基準に合わせて既存不適格を消滅させるのがよいのか?さらにその上にグレードアップを図り、マンションの資産価値を高めるのが良いのか?いろいろな選択肢があるかと思います。20、30年に一度の事なので広く意見を集めて、協議の上、慎重に判断する事をお勧めします。
特に安全性、利便性、意匠性に関わる仕様については見積金額に大きな差が生じるので、今回はその代表例について紹介します。
エレベーターリニューアル、4大オプションについて
戸開走行保護装置(UCMP)
既存不適格の項目で最も関心が高い安全装置と言えます。2006、2012年に発生した戸開走行事故を受けて、制御関係、ブレーキ関係を2重化する事により、未然に危険運転状態を回避する装置です。それぞれのエレベーターメーカーが国土交通省の認定を受けて製品化しているので、エレベーター会社によっては、見積対応不可の場合があり、金額的にも大きなインパクトがあります。
国としても既存設置エレベーター所有者に対してリニューアル工事の機会に設置推奨していますが、法的な義務はないのでそれ程設置率は高くはありませんが(法的義務が発生する新規設置エレベーターと合わせて35%程度)その他の既存不適格も合わせて採用するなら、補助金を設定している行政に申し込む事ができます。(但し、契約締結後から1年以内に完工する事が必要)

耐震対策工事(98、09、14耐震対策工事)
最新の基準が14耐震ですが、こちらはほぼ、設置した既設メ
ーカーのみしか、見積対応は難しいと言えます。
既設エレベーターの構造的な基準、規格、材質等その他、荷重計算、地震に対する安全率の計算等かなり細かいデータがないと対応が難しい為、対応不可とする独立系エレベーター会社が殆どですが、竣工当時の昇降機確認申請副本が保管されていれば、そのデータを基に対応可能とする場合もあります。
独立系エレベーター会社でも対応可能で、耐震関係もある程度充実させたいなら09耐震を推奨しています。
エレベーター機械室、昇降路までのそれぞれの機器に対して耐震補強が施されます。
コストを最優先させるなら、98耐震となります。主にはエレベーター機械室内の耐震対策のみとなります。各独立系エレベーター会社の標準仕様で98耐震としている会社が多いようです。

マルチビームドアセンサー
将来的にも入居者様の高齢化や、荷物の持ち運び、小さいお子様をともなったベビーカーのご利用の利便性と合わせて、エレベーター扉の障害物接触防止にも繋がり、故障発生の抑制にもメリットがあるので、予算が許せるのなら採用検討推奨します。

かご内壁、扉、床 意匠シート貼り工事
見栄え、心象の基準になりますが、逆にエレベーターリニューアル工事で見た目で、工事前と認識できるのは、乗場とかご内の操作盤が新しくなったくらいとなります。
1台につき、1週間から10日間前後工事中のエレベーター利用ができなかった期間後、やっと完了して体感できる変化が各操作盤のみとなると、住民の印象として物足りなさを感じさせてしまう可能性があります。
シートを貼りかえるだけで新設したエレベーターのイメージとなるので、こちらも予算にゆとりがあれば推奨しています。

工事仕様オプション採用により、引き渡し後の顧客満足度に大きな違い
より、安全性が高くなる戸開走行保護装置と耐震対策工事についてオプション追加金額としては最も高額となりますが、普段の利用で体感する事はありません。利用者が不具合トラブルや大規模災害時等の非常時に障害、弊害無く回避できた時に真価を発揮するので、顧客満足といったテーマで推考するべきではないのかもしれませんが、マンション全体としての資産価値、ステータスには当然なり得る物と思います。
利便性と意匠性については、普段の利用上や見栄えに直結するので引き渡し時にはよく、”キレイになった”、”便利で安心な機能がついてよかった”と感想を言ってこられます。
特にかご内意匠の色柄を決めるのに住民様へアンケートを実施し、集計結果の品番で施工した場合は住民様の工事に対しての参加意識が少し入るのでより満足度が高くなる傾向があるのではと思われます。
金額以上の満足度向上が至上命題
弊社では単純に見積金額の減額効果や見積金額の見える化等はもちろん、理事役員の方々を中心に、住民様にもより満足度の高いエレベーターリニューアルを感じてもらえるように取り組んでいきます。施工業者さんだけの問題ではなく、エレベーターリニューアル工事に携わるすべての関連する方々に必要な助言、サポート活動、問題の明確化と解決に向かって一緒に進めていきましょう。
エレベーターに限らず、これからのマンション保全管理の最も重要な視点であると感じていますのでよろしくお願いいたします。