
過去3度の大地震で施行された建築基準法のエレベーター耐震基準
既存不適格は現在、大きくは3つの項目によって構成されています。
1,戸開走行保護装置の設置
2,地震管制運転と予備電源装置の設置
3,耐震対策基準の明確化
本来はこれから新築される建物の設計、計画に向けての規制ですが、大きな事故や大災害の度に大きな被害を抑制する為に、努力目標として既設建物所有者にこの取り組みを推奨しています。
補助金対象条件としているのもその為です。
過去のブログでも幾度と取り上げた、戸開走行保護装置や地震管制運転、予備電源装置(停電時自動着床装置)については、今まで装備されていない機器を新たに設置するので、理解がし易いかと思われるのですが、このエレベーターの耐震対策工事についてはなんとなくイメージでは地震に強い機械に取り替えるのかな?ぐらいの理解はされても具体的にどこの部品がどういった部品交換、施工するのかははっきりしないと思います。
私もお客様に説明するのに大まかな事しか理解していなくて、この98,09、14の3グレードの違いとは何か?と聞かれても普段目にする事のない昇降路の中の機械金具や、ボルト類、ワイヤー周辺、躯体壁と各レールとの接合部であるブラケット、制御ケーブル(テールコード類)と想像すらできないので最も理解が難しい分野と思われます。
一つ、一つ細かくではなく、大まかな大体のイメージでなんとなくでも頭に思い描く事が出来れば耐震対策の内容については十分なので、今回は気軽に流し読み程度でお願いいたします。
3グレードの98,09、14はこの法律が施行された年度を示しています。
95年 兵庫県南部地震 → 1998年施行
04年 新潟県中越地震、05年千葉県北西部地震 → 2009年施行
11年 東北地方」太平洋沖地震 → 2014年施行
いずれも、記憶に新しい大地震の3~5年後くらいに、法律施行されています。
やはり、年度を追うごとに基準が厳格化になり最新の14耐震基準についてはほぼ、既設メーカーのみしか対応できないのが現状となっています。
14耐震を必須とするか、09耐震までで選択肢を広げて検討するかといった判断の大きなポイントとなるので、次にその中身について解説していきます。
範囲と捉え方(機械室と昇降路とその素材、規格、構造基準等)
建物には耐震、免震、制震といった耐震技術があります。耐震はより地震に対して強く、強固にといった考え方に対して、免震と制震は地震の力を吸収する、地震力を建物に伝わりにくくするといった技術ですが、一部のメーカーではタワーマンション向けに高層タイプのエレベーターに免震構造のエレベーターが備わっているとマンション広告に謡われているのを見た事がありますが、大多数の中低層規模のエレベーターは耐震のみの対策工事が対象となります。
98耐震
主にエレベーター機械室内の主要機器について耐震対策工事が為されている・・・といったイメージで捉えてください。
制御盤の転倒防止に盤上部に周囲壁と連結ワイヤーで吊って固定したり、ワイヤーロープが地震の揺れによって巻上機のワイヤー溝から逸脱しないように外れ止めのバーのような物を巻上機に装備されていたりする事を言います。コスト重視でいくなら、ある意味において98耐震が標準:ベーシック仕様として設定している保守会社が多いのでその中から相見積もりを取得し、検討を重ねる管理組合が多いように感じます。
09耐震
98耐震に加えて、エレベーター昇降路内機器全体を範囲としてレールと躯体を接合しているブラケット部、レールとレールをボルトで接合している鋼製目板、かごがレールに沿って昇降する軌道に挟み込むようにして取り付けられているガイドシューの外れ止め等、昇降路内一番下から上まで連結されているレールに関する構造補強の内容となります。
かごとワイヤーロープを介して対面に昇降する釣合いおもりに関してが09耐震対策の最も大きな目的となっているのですが、地震の揺れに対してこの釣合いおもりが脱落して昇降路下部へ落下させない対策が釣合いおもりの脱落防止対策です。
釣合いおもりは大きな鋼製のケース(箱のようなもの)に銅製の延板が何枚も重なり合いって内蔵されています。通常マンションのエレベーターではその重さが1200~1500kg程となるので約自動車1台分の重量物がエレベーター乗車中に上から落ちてきたら大事故となるのを防ぐためにこの対策内容の法律が施行されました。
従って、おもりのケースから地震の揺れによってこぼれ落ちないように連結金具を装着したり、押さえ金具で固定したりして相当な地震揺れに対しても耐用力のある対策が施されます。
最後にワイヤーロープや制御ケーブル、その他のロープ、配線関係等の長尺物が昇降中の地震の揺れによって引っかかったり接触しないよう保護線を沿わせたり、中継する中間ボックスを設置したり保護金網を張ったり、狭い空間でそれぞれの機器が干渉しないように細やかな金物類で機器の区分け、ガイド等が施工されます。
14耐震
09耐震と14耐震は工事に関する施行内容についてはほぼ同じです。
大きな違いは、基準の明確化です。
現行法では14耐震が基準となっていますが、現行法以前の基準である既存不適格のエレベーターに対して、現行法である14耐震と照らし合わせての検証が求められます。
レール、レールブラケット、中間ビーム、マシンビーム、かご本体、釣合いおもり本体等のミルシート(品質証明)から現行法に適合しているかの検証、証明が求められるので、既存エレベーターの詳細な製造情報はそのメーカーでないと検証できないのが実情となっています。
したがって、14耐震のリニューアル見積が必須となると選択肢が一気に狭くなりメーカー系保守会社一択となるケースが多くなります。
独立系保守会社でも、竣工当時の昇降機確認申請副本を提供する事により、その申請記載データーを基に設計検証、必要な補強、交換箇所を割り出し見積対応するところもあるのですが、限られた会社となります。
ほぼ、メーカー系でもおもり関係の素材証明が難しいので必然的に交換必須となります。
エレベーター耐震対策選択の判断は専門家の解説と意見を参考に
なんとなくのイメージと結論だけでもご理解できれば方向性だけでも見えてきたのではと思いますがいかがでしょうか?
耐震に関しては内容も細かく専門的なので机上論では把握できない範囲となります。
管理組合の役員の方が、ご一読されてなんとなく理解できたとしても他の役員の方にどう説明したらよいかまではなかなか難しいので、どうかお気軽にご相談ください。
ご理解いただきやすいような説明ツールもご用意していますので是非ご検討願います。