
遠隔地での部品供給終了機種エレベーターリニューアル見積仕様の検討
数年前、ある賃貸マンションの所有者かつ管理者の法人格のお客様の事例ですが、担当者様は管理会社勤務経験のある方で、すでに何社かエレベーター会社にリニューアルの見積依頼をして取得されていました。
当時はエレベーター会社に在籍してたので、見積希望の依頼を受け、新規の受付となるのでまず現地調査希望を伝えたところ場所がなんと茨城県!?大阪の不動産会社で茨城県に所有物件のエレベーターリニューアル見積依頼だったので、関東の担当者に現地調査の手配をして機器の仕様、スペック、環境、状態の調査シートレポートを受け取り、見積作成、お客様への提案となりました。
現地調査シートの内容と付近環境、機器の写真や調査スタッフのヒアリングからとお客様のご意向を聞きながら、リニューアル見積仕様を決めるのですが、やはり、一番の要望点は必要最小限で出来るだけ費用を抑えつつ、目的であるメーカーの部品供給終了問題をクリアしたい点とここ最近、扉関係の不具合故障が発生しているのでその対策についても今回のリニューアルでクリアしたいとの事でした。
現契約保守会社の対応した点検作業報告書、故障対応報告書を取り寄せてもらい、現地調査スタッフにこの内容の情報共有をした上でリニューアル工事仕様内容を確定したのでした。
まず、この該当機種の部品供給終了箇所は制御盤内の基板関係なので、制御盤含む電気系部品を一式交換する必要がありました。巻上機について交換対象とするかの判断ですが、設置からちょうど30年経過しているので
制御盤と一緒に交換するべきか判断が分かれるところなのですが、現地調査スタッフとの意見交換から、9階建ての総戸数50戸程度のワンルームマンションから利用頻度もそれほど高くない事から、巻上機は既存流用としました。
あとは、現状POG契約だったので一通りの保全部品(各操作盤、制御ケーブル、リミットスイッチ、着床装置、調速機等)と過去の部品交換履歴から数年前にワイヤーロープ関係を交換しているので今回、巻上機既存流用も併せてワイヤーロープも交換の必要性は無しとしました。
今回、最も提案仕様で悩んだのが扉関係不具合についての対策だったのですが、いろいろと調べていると場所が海岸沿いの少し陸に入った程度のロケーションで回りに同じくらいの建物がなく、特に最上階乗場では雨、風の影響を多く受ける事と最下階地下ピットに浸水が発生した経緯のレポートから乗場扉からの強風、大雨の影響による浸水の可能性があるのではと推察する事ができました。
さらに、作業対応履歴を捜索していると1,2年前に上層階で乗場操作盤に雨水が侵入し応急処置で操作盤ボックス内ビニールカバーを被せたとする履歴も見つかり、扉関係の不具合起因の関係性が高いと推察し、現地スタッフに再度、乗場扉の駆動関係、連結部の現地確認調査を実施してもらいました。
やはり、扉上部の可動域であるドアレール、ドアハンガーローラー類に腐食が進行している状態を確認されたので、顧客担当者様に状況報告と提案内容としてドアレールの腐食除去、磨きとドアハンガーローラー全数交換を付加したリニューアル見積仕様の提案となりました。
担当者様からの反応は、必要最小限で不具合対策も盛り込まれた見積内容となっていて非常に満足された様子でした。
後で聞いた話だったのですが、他社エレベーター会社の見積ではその不具合対策の内容が盛り込まれていなかったり、すべての乗り場扉一式交換の内容で非常に高額見積提案に比べて、扉の劣化箇所に絞ったこちらのニーズに一番適応した内容だったと話していただきました。
エレベーター管理問題解消と意匠性グレードアップより資産価値維持
先の要因より、リニューアル工事の発注をいただいたのですが、その発注書、契約書の手続きで通常と異なった内容の指示がありました。
発注書の注釈、備考にもし、契約後工事完了までに転売となった場合はその転売先との契約履行として引き継ぎ、債務を完了とする事、保守契約についても当初取り決めた条件を転売先の新所有者と同様条件での契約とする事等、通常想定しない内容の文言を契約書に盛り込むようなご意向を受けたのでした。
発注者と受注者がその時の条件で契約合意した内容を後に所有者が変わった場合でも同条件で切り替えが可能とする内容の契約内容とは、さすがに契約と言えるのか?と社内でも物議が上がり結局、通常の契約書通りの内容となりましたが、その時からエレベーターの問題を解決した状態で物件売買を想定した意図だと知らされたのでした。
工事は発注後、約半年後着工し無事完成引き渡しとなり数か月過ぎた頃に連絡があり、物件売買が成立しそうだとの打診がありました。
その後、不動産仲介会社からや管理会社から保守見積の依頼があったりして、新所有者とのやり取りが始まったのですが、東京の個人オーナーの方で非常に堅実でしっかりとしたお考えを持った方の印象を受けました。
事前に管理会社経由で現状の保守見積を取得され、その見積ベースに他のエレベーター保守会社からも見積依頼をかけて取得されたようでした。
先のリニューアル工事の内容だったり、点検履歴だったりと非常に熱心にエレベーターの事も勉強されているようでした。
現場が茨城県でお客様が東京なら、もしかしたら他社で保守契約されるのかもしれないと思っていましたが、契約切り替え継続となり現在も継続頂いてるようです。
中低層建物の設備で最も気にする事はエレベーターであり、その保全状況によってはランニングコストで大きなインパクトがあると仰っていました。
逆のパターンで、リニューアル工事どころか、消耗部品すら交換されず数年間経過したマンションをある外国人の方が購入され、ちょうど1年後に連続不具合故障が発生し、安全上の判断で停止措置をとったのですが、現契約先の独立系保守会社ではその故障原因となった基板がすぐに入手する事ができず、オーナーがメーカー系保守会社に直接発注してそれでも2週間エレベーターを使うことができず、住民様からは連日問い合わせ、苦情の電話を受け、その基板交換費用は通常条件の独立系の金額のほぼ2倍の費用だったと聞きました。
その後は、すぐにはリニューアル工事実施できる資金余裕がないので他の部品もいつ故障してもおかしくないと深く認識され、割高なメーカー系保守会社との保守契約を締結されました。
いかに先を見越して管理的瑕疵を解消した状態で資産価値の維持向上を図れるか
エレベーターは建物玄関エントランス同様以上に物件第一印象に大きく影響を与えます。狭い空間で数秒間であってもその間、必ず拘束されるので
壁、床の状態、乗り心地や振動、ドアの開閉動作等強制的に視覚、聴覚、触覚に入ってくるので専有部同等にプライオリティーが高いといった不動産購入アンケートの結果もありました。
エレベーターに関しては機械的な部分については前述のような状況ヒアリング、情報収集は単独ではどうしても無理があります。
信頼のおける専門コンサルタントの起用をご検討ください。



