
油圧エレベーターリニューアル検討に必要な予備知識として
マシンルームレスエレベーターが新築市場に普及しだしてから、25年以上が経過してきました。
現在では、マンション、ビルに設置される新築建物にはほとんど油圧式エレベーターは設置されていませんので、各エレベーターメーカーは完全に新設部門の油圧式エレベーターの生産ラインをロープ式エレベーターに切り替えています。それに伴って関連する技術者構成も油圧エレベーターに精通する人員も自然減となり、全国的にも油圧式エレベーターに精通した技術者が限られてきている現状があります。
しかしながら、既設市場では最大で約10万台稼働していた保守管理市場にはその必要性が高まっており、その最もニーズを求められているのが更新時期を迎えた設置から25~30年経過の油圧式エレベーターです。
同年代設置機械室のあるタイプのロープ式エレベーターに関しても同じく、更新時期を迎えた台数のピークとなる年代なので、メーカー系保守会社のリニューアル受注から工事着工までの待ち時間の長期間化についても、その原因の一端となっているのではと推測されます。
その、側面では独立系保守会社による油圧エレベーターの制御リニューアルの精力的な営業攻勢が見られます。
あくまで、独立系の保守会社は保守、メンテナンスに事業の基軸を置いていますので撤去新設の油圧式からロープ式に入れ替えるリニューアル提案をしません。
油圧式の構造のままで、油圧の制御機器を新しく入れ替える提案で、コストと納期、工事期間によるエレベーター停止問題にマシンルームレス型ロープ式の撤去新設工事との比較検討に最大メリットを見出しての案内を展開しており、多くの管理組合、所有者も油圧制御リニューアルを採用されています。
どちらにしても、メリット、デメリットがありその建物、マンションの実情に合わせて慎重に判断する必要があります。


油圧制御リニューアルの製品構成
油圧式エレベーターはロープ式と比べて、部品構成、点数が多く構造も複雑です。ロープ式では巻上機、電動機、ロープといった構成ですが、油圧式は油圧ユニットとしてタンク、バルブ、電動機、ポンプ、高圧ホースと一つ一つが精密な機器であり、構造は単純ですが熟練職人による技術力が問われる据付工事、調整作業となります。
それでも昔に比べると、油圧の構成部品も電子化が進んで着床精度の調整作業も、マイコンによるAI学習運転で半分の作業時間になったとか、油圧エレベーターは時代遅れと揶揄される中、それなりの技術の進歩があるようです。
もう一つの主要機器といえば制御盤ですが、これに関しては中身の基板データ、シーケンサ、その他の電子機器類はロープと違いますが、外観は同じです。
今回、最も取り上げたかったのが、じつは油圧ユニット、制御盤ではなく昇降路内のシリンダーパッキンという、消耗品に近い部品になります。
1階からエレベーターが上昇する際に、機械室の油圧ユニットのモーター、ポンプが作動してタンク内の作動油を配管通して昇降路へ送ろうと作動油を押し出します。その際は、バルブが開いて油の流量やモーターの回転量、着床装置からの位置信号等が一斉に制御盤に入出力され処理判断されて目的階に到着されるのです。
その作動油の圧力を受けてかごを動かすのが、シリンダーであり、2つの重なり合って稼働する接合面がパッキンという部品になります。
油圧パッキンはそのエレベーターの機種、年代、シリンダー系(太さ)によってマチマチであり、形状、材質もメーカーによっても違いがあります。
油圧関連部品の推奨耐用年数で作動油の交換はおおよそ、10~13年と言われています。
ロープ式のワイヤーロープと役割ともに交換周期も似ていますが、ロープ交換程、交換の重要性が認知されていないのか推奨年度通りに交換を実施されているマンションはあまりいらっしゃらないようです。
ロープは切れたら落ちる イメージがあるので、傷んでいたらすぐに交換といったイメージはつくのですが、作動油交換は 少しくらい油が劣化しても大丈夫だろうと認識されている方が多いのでは?と交換実施率が少ないと思われます。
それに伴って、先述した油圧パッキンについても同様で耐用年数がはるかに超過しても、それなりに稼働するのでまだまだ使えると判断されるケースがおおいように感じます。
上下2本のシリンダーの接合部であるシリンダーパッキンはエレベーターが昇降する度に隙間を埋めながら稼働するので、摩耗消耗は必然です。
摩耗が進行すると、パッキン内側から隙間が生じてその間から油が漏れるので、昇降路ピットに漏れ出た作動油が確認された段階で、即交換が必要です。先述の油圧部品の生産終了問題から、パッキンの流通に滞りが見え始めているので、現時点でそういった兆候がなかったとしてもこのリニューアル工事の機会に見積もりに加える事をお勧めします。
2番目、3番目に検討項目に加えてほしいのは、ワイヤーロープとガイドローラー/ガイドシュー関係です。
油圧式なのにワイヤーロープ?と思われますが、シリンダーでかごを昇降させるのに、シリンダーとかごを繋いでいるのがワイヤーロープになります。
ロープ式のように、停止している間でも常に荷重が掛かっているわけではありません。主に上昇運転時、かごを持ち上げる時にシリンダーの力をワイヤーロープを介して起動させているのでロープ式エレベーターよりも劣化進捗は少ないですが、最低限としては15~20年で交換する事をお勧めします。
基本的にワイヤーロープは表面的にも錆や素線切れが無くても10年での交換をメーカーでも推奨しています。
ガイドローラー/ガイドシューに関しては、そのエレベーターの機種によってどちらが対象なのかが分かれていますので、現保守会社に確認し、劣化状況を確認しての判断になります。
乗り心地に直結する部品になりますので、10~15年以上交換実績がなければこの機会に交換するのがベターでしょう。

長期的視野と総合的な判断が必要な油圧エレベーター改修工事
修繕積立金予算、長期的に見た資産価値、安全基準、工事中の停止期間等ロープ式のリニューアル工事よりも課題の大きさ、項目も多いのが油圧式エレベーターのリニューアル工事検討ですが、一つ一つを明確にして時間をかけてでも合意形成を取りながら進めるには専門家の意見を参考にする事が必要ではないでしょうか?
一度、お気軽に相談してください。